【掌編】
□【掌編】二十話
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朝である。
「むにゅ……」
僕は自宅の二段ベッドの下段、布団にくるまって寝返りを打つ。
ぱちりと両目を開いた。
手のひらに何か握っている感触があったので、何だろうと思って見ると、もふもふした毛糸と編み棒だった。中途はんぱにほつれた毛糸の束を見て、そういえば昨夜は趣味の編み物をしている途中で眠ってしまったんだったか――と思いだした。
とりあえず寝転がったまま、きりのいいところまで編み進めてみると。
「目が醒めると同時に即行動なんて、ロボットみたいだねえ」
声に気づいて振り仰ぐと、感心しているというより意地悪なふうに言いながら、上段のベッドから姉がひょこひょこと降りてくるところだった。
「それが文花ちゃんの、不気味で可愛いところだよねえ」
そう言う姉は、学校での真面目そうな雰囲気とは裏腹に軽薄なパジャマ姿で、髪の毛もぼさぼさだ。眼鏡がないと、えらく幼く見えるときがある。紅もひいていないのに真っ赤なくちびるが、皮肉げな笑みのかたちに歪んでいる。