【掌編】

□【掌編】一話
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 何かと思ったら、野菜である。
 トマト。キュウリ。アスパラガス。パセリ。シソ。ゴーヤ。

 種類はあまり多くなく、自宅でも栽培できるようなものばかりだ。どうやら自家製らしく、おおきさが不揃いなものばかり。宿はぴょこぴょこした動きでそれらの野菜を無造作に並べ終えると、空っぽになった段ボールを恐ろしい音をたてて引き裂き、てきとうな四角形をつくるとそこにマジックペンで文字を書いた。

『●☆仝@∋ぎ$♂£リン☆』

 読めなかった。
 宿は満足げにそれを眺め、うっすら微笑むと、裂いて重ねた段ボールの残りを小脇に抱えてまた去っていった。
 その可愛らしい後ろ姿を、軍辞がぼんやり眺めていると。

「これ、何て書いてあるのかしらね?」

 不意に背後から、とまとの声が響いた。

「うわっ、びっくりした!? 何だよ、結局おまえもきたのかよ」

「ひとりで座っていても暇ですもの。何よ、わたしがきちゃいけませんの? それよりあなた、これ何て書いてあるか読めます? 豚なのですから、人間の言葉以外もわかったりしないんですの?」

「おまえこそ宿さんと俺より親しいんだろうが。読めないのかこれ?」

「やどちんについては、万能無敵なこの月吉とまとも手も足もでませんわ。ちょっと前までは、たしかに内気だったけれど、ここまでコミュニケーション断絶してる子じゃなかったのですけどね……」

 先輩を相手に『子』とか言いながら、とまとが思案げに。
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