【掌編】
□【掌編】十一話
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「よくわかんないですよ、俺は。そういうの――」
「そう、哩音は幸せものね……」
「いや、何で俺が姉のことを好きだからふつうの異性に興味をもてないかのように言うの」
「あたしのこと、『お姉ちゃん』って呼んでいいのよ♪」
「姉はふたりもいらんですよ」
軽快なワンツー・パンチ的な、さっぱりどこに飛んでくるか予想のつかない、自由な美血留の言動だった。真面目に会話してるのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
美血留はにやついて。
「だって、近ごろなぜか哩音、あんまり〈アジト〉に顔ださないしさあ――軍辞くんが寂しがってるんじゃないかって、お姉ちゃんは予想したのよ?」
「あんたは俺のお姉ちゃんじゃねえ」
哩音がこないのは、先日の父親との一件のせいでいまだに落ちこんでるのだろう、と軍辞は思う。軽薄そうに見えて、哩音は純情で、どちらかというと鬱気質だ。傷つきやすく脆い心を、化粧とふざけた言動という仮面でよろっている。
「何か悩んでるなら、相談してくれてもよいのだけど」
美血留がはんなりと溜息をついた。
「あたしたちは、魂で結びついた〈秘密結社〉の同胞なのだから」
もういいわ、ありがとう――と満足そうに軍辞の手をのけて、美血留はおおきく伸びをした。相変わらず、全体的に動きが猫っぽい。
こちらに向き直り、間近から見あげてくる。
「ありがとう、軍辞くん。ほんとにね、あたしいつもここで独りだから――こうして話し相手になってくれるだけで、ずいぶん救われてるのよ。肩も揉んでくれたしね」
その瞳が、魔眼のように妖しく煌めいた。