【掌編】

□【掌編】十八話
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 驫木誠。
 男の子みたいな厳めしい名前の彼女は坂上田村麻呂中学校の最上級生――三年生で、あくあの取り巻きのひとりである。

 何だかいつも濡れているような光沢のある髪の毛はくねくねしていて、何だかたくさん時間をかけてお洒落にした癖っ毛みたいな感じ(正式な呼びかたがあるのかもしれないけど、僕は知らない)。
 制服はややだらしなく着崩していて、胸元なんかがだいぶ開いており、しつこく女生徒の間で流行しているだぼっとしたルーズソックスを愛着している。

 においに強いこだわりをもつらしい彼女は、いつでも胸元に匂い袋? ポプリ? みたいな謎のものを首飾りのようにぶらさげていて、近づくと彼女がその日の気分でセレクトした多種多様な香りが鼻腔をくすぐる。
 いつも何だか陰を背負っているように物憂げで、疲れきったように溜息がおおく、動作もにぶい。あくあの取り巻きのなかであの矢賀茄后美が明るいほうの一派の代表だとしたら、誠は暗いほうの一派の代表である。

 そう、あくあの取り巻きは明暗で二極化しているのだ。明るいほうは、単純にミーハーな気分で美少年のあくあを観賞したり、きゃあきゃあ騒いでいるだけなのだけど。暗いほうは陰湿に粘着し、心の悩みを相談したりしつこく付きまとったりして、ガチな感じ。
 見ていて怖いほどに暗いほうの一派はあくあを崇拝していて、軽薄な明るいほうの一派を毛嫌いし、あくあがいないところでは悪口を言いあったりの小競りあいが耐えない。

 あくあもそういうのを面白がるほうだから、放置しており、いつでも両派の間には緊張感が漂っているのだ――頭の痛い問題である。
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