【掌編】
□【掌編】一話
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「『果汁百%』とか書かれてる野菜ジュースを見ると、にんじんとかが『俺は野菜だよ! 果物じゃねぇ、だから果汁なんかださねぇ――野菜としての誇りをもって生きてるんだ!』って叫んでるような錯覚をおぼえますの」
「……だから何だよ」
放課後、〈アジト〉に赴いた軍辞は、珍しくとまとと二人っきりになった。
この二人は犬猿の仲なので、話題が弾むわけもなく、かといって沈黙しているのも耐えられないので、意味のない遣り取りをしているが。
もと五十メートルプールに絨毯を敷き、座布団を置いただけのうら寂しい空間でふたり横並びになり、互いに切っ先を向けあうかのように緊張しているのも疲れた。
軍辞はプールの片隅に置かれたTVに気づき、ふと提案してみる。
「あの、TVでも見るか?」
「TVは俗物どもを洗脳する邪悪な電波発信装置です。当然、そのTVは電波を受信できないようにコーティングしてあります。NHKすら受信しませんわ」
「何のためのTVだよ!」
「そもそも、わたし――TVが大嫌いですの。バラエティ番組とか、ワハハハハとか笑い声が響くたびに、自分が嘲笑われているような気分になりますわ」
「被害妄想だよ! TVの中のひとはおまえなんかに興味ねぇよ!」
面倒くさい女の相手をするのに疲れたので、軍辞はTVのそばに移動し、あちこちガチャガチャいじくってみる。