【掌編】

□【掌編】十話
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『もう僕は疲れたよ』と言わんばかりだ。というか、狙ってやってるとしか思えない。犬と人間が寄り添い、片手をのばしてぐったりとうつ伏せ。これで雪がふったり天使が舞い踊っていたりしたら完璧だが。

 外は寒いとはいえ雪などふってないし、そもそも眠っている張本人、亡々宮美血留という女性はそう簡単にくたばりそうにない。ルーベンスの絵を「あら意外といけるじゃない」とか食べて栄養にしてでも生き延びそうだ。

「どういう状況だこれは……」

 秦軍辞はどうでもいいことを考えながら、しばし立ち尽くす。放課後、いつものように暇な軍辞は〈アジト〉にきたのだ。他のみんなはバイトだの生徒会の仕事だので顔を見せたり見せなかったりだが、軍辞は皆勤賞に近い。
 ともあれ、あまりにも静かなので誰もいないのかと思って、周りを見回したら寝てる美血留を発見したのだ。

 いつも軍辞たちが座りこんでだべっている、水の抜かれた廃プールには布団もあるので、そこで眠っていたならおかしくはないのだが。プールサイドに何も敷かず、ごろりと寝そべっているので、行き倒れみたいだ。

「し、死んでないよな……」

 不安になっておどおどしながら、軍辞は美血留のそばにしゃがみこみ、口元に手をもっていく。わずかに吐息を感じたし、よく見ると肩などがわずかに動いているので、生きてはいるみたいだ。
 ぐっすり眠っているらしく、わりと穏やかな表情である。軍辞は「おーい」と小声で呼びかけてみたが、起きない。
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