【本編】
□【本編】七話
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「うふふ〜、軍辞くんとでーと♪ でーと♪」
派手系な今どきの女子学生が、まだ幼さの残る中学生の腕に縋りついて嬉しそうにしているのは、援助交際とは逆ベクトルで犯罪臭のする光景であった。麻呂中の近辺では最も発達している城下町、それなりの人混みのなかを歩きながら、彼女――秦哩音は最愛の弟にしきりに胸元を擦りつけながら。
「見られてる、見られてる――お姉ちゃんと軍辞くんが仲良しなところみんなに見られてますヒャッハア! 見て! 血の繋がりも法律も無視してめでたく結ばれたアタイたちをガン見してぇ!」
「結ばれてねぇ」
「ハァハァ……軍辞くんの身体に密着してたらお姉ちゃん我慢できなくなってきました――そこの路地裏とかでどうですか一発、日本の刑法に喧嘩売る行為にいそしみませんか? あたしたち姉弟なら勝てる!」
「勝ちたくもねぇ」
姉の頭がおかしいのはいつもどおりなので、軍辞はてきとうに受け流しつつ、この時間だと歩いている麻呂中の生徒もいるので姉と腕組みが恥ずかしく、彼女を引っぺがす。
「つうか、暑苦しいし重いんだよアホ。そもそも、何でついてくんだよバイトがあるんだろうが。姉貴の唯一の長所は勉強も仕事も真面目にやることだろ?」
「ひどい軍辞くん、お姉ちゃんは『仕事と俺、どっちが大事なんだ!?』と詰問されたら『もちろん軍辞くんだよヒャッホウ! 子作りしよう!』と押し倒す準備は満々なのに!」
台詞とは裏腹に、思春期の弟の羞恥心もわかるのか、少しだけ距離を開けてくれて。