【掌編】
□【掌編】十六話
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そのあと。
「う〜む」
僕は広すぎて落ちつかないお風呂場で、肩までお湯につかって唸っていた。
ハーブか何かだろうかぐわしい香りが満ちていて、お湯は獅子を模した像の口から注がれ、無意味に壁のタイルには薔薇の絵画が描かれたりして――やっぱりちょっと成金趣味だ。
月吉とまとの自宅、その屋敷の大浴場である。
個人宅に不必要に思える規模の、お金をとって客を集めてもいいんじゃないかと思える馬鹿馬鹿しいでかさのお風呂だった。学校のプールよりも広い空間なか、独りぽつんと湯浴みをするのは何だか寂しいぐらいだったけど。
話の流れで、今日はこのおうちに泊まっていくことになったのだ。
どうせ休日だし、親睦を深める意味で――とのことだけど、その提案をした姉は『ごめんね〜、仕事があるから。あとは若いひとたちに任せるぜっ♪』とかあっさり帰ってしまった。あの野郎……。
置き去りにされた僕は、虎の巣に放置されたみたいな気分で落ちつかずにいた。
これでいいのかなあ。
僕はとかした宝石のように妙にきれいな薄桃色のお湯を手ですくって、ぼんやり眺めつつ、溜息をついた。あくあに命じられ、月吉とまとと交流をもつためにこの屋敷にきた――そういう意味では、僕は役目を果たしているといっていいだろう。
でも、相変わらず月吉たちが所属しているらしい〈秘密結社〉とかいう謎の集団については不明のままだし、彼らと接触してあくあに何の得があるのかわからない。先行き不明のまま、目的も定まらず、ぼうっとするのは性にあわない――不安になる。