【掌編】

□【掌編】十七話
37ページ/46ページ

 あたしは何だか、気が抜けて。

「『どうしたの』じゃないわよ、もう――最近あんた、学校休みすぎよ?」

「それで心配してきてくれたの?」

 何だか嬉しそうに言われたので、毒気を抜かれる。見たところ元気そうだし、気の回しすぎだったかしら。急に居たたまれなくなってきた。

「いいのに、あたしのことなんか気にしなくても」

 いちど脱衣所に戻って、どうも服を着ているらしい。衣擦れの、やけに生々しい音。落ちつかなくて立ち尽くしていると、鞠和ちゃんがじっとこちらを見ていることに気づいた。
 相変わらず陽光のような、やけに輝かしい瞳。

 彼女は、すこし言いあぐねるようにしてから――小声で。

「お姉ちゃんを助けて」

 独り言みたいに、つぶやいた。
 え? とよく聞こえなくて、でも心にその言葉が刻印されたみたいに、あたしは何だか動揺してしまって。
 ふと気づいた。

 彼女が今の今まで立っていたところ、床の濡れかたがおかしい。よく見ると、それは血液のようだった。凝固し、鉄さびのようになる。
 全身に鳥肌が立った。

「デイジー!?」

 あたしは靴を慌てて脱ぎ捨てると、おもむろに玄関にあがりこみ、閉められた脱衣所の扉を開いた。そして愕然とする。デイジーはいまだ一糸もまとわぬまま、お風呂の栓を抜いていた。何かの証拠を隠滅するみたいに。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ