【掌編】
□【掌編】十七話
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あたしは何だか、気が抜けて。
「『どうしたの』じゃないわよ、もう――最近あんた、学校休みすぎよ?」
「それで心配してきてくれたの?」
何だか嬉しそうに言われたので、毒気を抜かれる。見たところ元気そうだし、気の回しすぎだったかしら。急に居たたまれなくなってきた。
「いいのに、あたしのことなんか気にしなくても」
いちど脱衣所に戻って、どうも服を着ているらしい。衣擦れの、やけに生々しい音。落ちつかなくて立ち尽くしていると、鞠和ちゃんがじっとこちらを見ていることに気づいた。
相変わらず陽光のような、やけに輝かしい瞳。
彼女は、すこし言いあぐねるようにしてから――小声で。
「お姉ちゃんを助けて」
独り言みたいに、つぶやいた。
え? とよく聞こえなくて、でも心にその言葉が刻印されたみたいに、あたしは何だか動揺してしまって。
ふと気づいた。
彼女が今の今まで立っていたところ、床の濡れかたがおかしい。よく見ると、それは血液のようだった。凝固し、鉄さびのようになる。
全身に鳥肌が立った。
「デイジー!?」
あたしは靴を慌てて脱ぎ捨てると、おもむろに玄関にあがりこみ、閉められた脱衣所の扉を開いた。そして愕然とする。デイジーはいまだ一糸もまとわぬまま、お風呂の栓を抜いていた。何かの証拠を隠滅するみたいに。