【本編】
□【本編】十一話
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お風呂は好きだ。
身体のぜんぶがあったかいお湯にとろとろ溶けて、消えてなくなっちゃうみたいで――難しいことも悩みもぜんぶ、幸せな感じにとろけてなくなっちゃう。
「ふは……♪」
茄后美は自宅のあまり広くはないお風呂で、せいいっぱいに足をのばして、入浴を満喫していた。あわあわに包まれた湯船のなかで指先に白い泡を集めて、ぷうっとしゃぼん玉。それを水鉄砲で撃墜して、きゃあきゃあ遊んだ。
中校生にもなって風呂場ではしゃぎすぎていると――不意に「茄后美、入るよ」と脱衣所から声がかけられた。
姉だ。
珍しい、姉は自分が貧相だからわりと立派な茄后美の身体を見ると凹むとかで、ふだんはいっしょにお風呂なんかしないのに。
茄后美は小首を傾げて。
「もうすぐあがるよ? っていうか、うちのお風呂あんまり広くないからふたりで入ると狭くて窒息しちゃうよ〜?」
「あたしが少ない給料で買ったこのマンションの設備に何か不満があるの、只飯食らい」
「生活費いれようとしてもお姉ちゃん受けとらないじゃん〜」
「学生の間ぐらい、お金のこと考えなくていいよ。どうせおとなになれば死ぬまでずっとそのことしか考えられないんだからさ――じゃあ、入るから」
がらがらと曇り硝子の引き戸が開かれて、姉が姿を見せた。