【本編】

□【本編】十一話
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 いま、立派に社会人をやっているのが不思議なぐらいだ。
 両親とはそのころから不和で、いま姉妹ふたりで暮らしているのもその名残だ。最近は、ちょくちょく連絡を取りあっているようだけど。

 人間は変われる。少しずつでも。
 それを成長ととるか歪みととるかで(幸か不幸かではないだろうとは思う)、潮の人生の価値は変わる。でも、少なくとも潮は社会に関わり少なからず評価され賃金を得て、茄后美を養ってくれている。

 立派なおとなだ。尊敬する姉だ。
 茄后美は口にはださないけど、いつもそう思ってる。

 でも、どれだけ上っ面を装っても根本的な性格はそう簡単に矯正できない。潮は毎日あきらかに無理をしていて、夜は泥のように眠っている。せめて、自分だけは姉の重荷になりたくないのだけど……。
 茄后美は思いつつも、身を竦ませたことで口元まであがってきたお湯を、そっと舐めた。姉の味がする気がした。

 潮は怨念すらこもっていそうな、えらく迫力のある表情で。

「茄后美――あんた最近、何か変なことしてるでしょ」

 やはりその話だ。
 ばれないわけがない、姉妹だ。ふだんと変わったことがあれば、すぐに察知される。にきびひとつができたぐらいでも。
 茄后美は何だかぜんぶが姉の思うどおりみたいで、手のひらの上みたいで、面白くなくてくちびるを尖らせた。

「お、お姉ちゃんには関係ないもん」

「嘘をつかなくてもいい」

 潮はそっと、茄后美の鼻と、自分の鼻をあわせる謎の愛情表現をした。
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