【本編】
□【本編】十一話
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「茄后美、あたしはあんたのために何でもしてきた――それを無駄だったと思わせないで、お願いだから。せめて、迷惑をかけないで」
「何それ、べつにお世話してくれって頼んだわけじゃないし〜」
「思春期みたいなこと言わないで、あのね――言っておくけど、喧嘩したいわけじゃないんだ」
拗ねていると、潮は何だか泣いちゃいそうに。
「わかって、……あんたが心配なの」
その言葉に、何だか胸がじんとした。このひとの言うこと、何でも聞いてあげたくなる。内臓のひとつやふたつぐらい食べさせてあげてもいいぐらいに。
でも。
だからこそ。
「お姉ちゃんはさ、あたしのために――色んなことしてくれた。好きだった変な服ぜんぶ捨てて聞いてた音楽に耳を塞いで怪しげな本を売り払って両親から逃げて、疲れてるのに面倒なのに自分を曲げて働いてるよ、すごいよ。尊敬してるよ、それはほんとう」
巧く言えないけど。
「でもねお姉ちゃん、脱ぎ捨てるだけじゃ風邪ひいちゃうよ」
だから、すこしでも姉にも恩をかえしたいから。
何ももってないけど、せめてあっためてあげたいから。
世界中の誰もが裏切っても、唯一――姉を裏切らない暦子を、背中を押して。鼓舞して、面倒くさいのに。姉のもとまで引きずってこようとしている。