【本編】

□【本編】一話
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 秦軍辞は、その日も苛々していた。
 いつも何くれとなく話しかけてくる友人たちも、『今日の軍ちゃんは触れれば切れるギザギザハートの十四歳!』とか言って近づいてこなかった。

 みんな自分が傷つくかもしれない可能性に敏感だから、カミソリみたいで不機嫌な軍辞には、誰も関わろうとはしなかった。
(まぁ、いいけど)

 軍辞もせっかく仲良しなふりをしているクラスメートや、必死のバランス感覚で穏やかな生活をしている周りのみんなを、いたずらに乱したくなかったので。

 孤高をつらぬき、不良ぶり、授業中も放課後も独りぼっち。
 やることもなかったので帰宅しようと――鞄を肩に担いで教室をでた。
(何事もないほうが、誰とも関わらないほうが、楽だし)

 寂しいけれど。

 思いながら、軍辞は在籍する私立坂上田村麻呂中学校(通称、麻呂中)のごく平凡な廊下を歩いていく。廊下に留まって小鳥のようにお喋りをしている女生徒。竹刀袋や水着袋やサッカーボールを抱えて部活動に赴く青春野郎ども。
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