【本編】
□【本編】一話
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そんな彼ら彼女らに、溜息をつきながら、軍辞は背を向ける。
秦軍辞は十四歳。順調に発育して体格はよく、鍛えていたので筋肉もある。坊主頭にしていたのを伸ばし始めたばかりの短髪。いまは諸事情あって常に不愉快そうなツラをしているので、どこから見ても不良だった。
不良。落ちこぼれ。間違ってはいないけれど。
(何なら社会の底辺らしく、トイレで煙草でも吸ってやろうか)
冗談めかして思いつつ、ふつうに帰宅するのもなんだか寂しくて、ざわめく校内に留まっていたくて――軍辞はそっとトイレに足を運んだ。
煙草を吸いたかったわけではない。そもそも、そんなもの持ってはいないのだ。
尿意があったわけでもない。ただの暇潰し、帰りたくないなんて気持ちを持て余して、けれど行く場所もなくて、たまたま足が向いただけだ。
やや不便な位置にあるから、ほとんど誰も利用しない、寂れた便所。
そこに足を踏み入れたことを、軍辞はしばらく――後悔することになる。