【本編】

□【本編】三話
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 けれど、実際的に――いじめられっこに同情するのは難しい。空気を読み、周りにあわせると、いじめられっこは汚く不快で、この場から放逐するべき忌まわしい存在に見えてくる。同じ人間なのに。関わりたくない、排除したいと思ってしまう。

 教師だって同じだ。

「おい憂奈木」

 国語の授業中、『話しやすい』ということで生徒からお友達のように親しまれている教師が、相変わらず眠りこけている憂奈木を注意した。

「おまえは何なんだ、いつも――そんなに俺の授業はつまらんか?」

「…………」

 教科書で頭を小突かれ、鞠和はわずかに顔をあげたけれど。

 教師をちらりと一瞥すると、欠伸をして、また突っ伏してしまった。

 若い男性教師はぴくぴくと顔を引きつらせ、露骨に舌打ちした。

「せんせ〜そんなの放っておきなよ」「そうよそうよ」などと周りの生徒に言われて、教師は「そうだな」と頷くと、教科書を先に進める作業に戻った。

 教師だって人間だから、どうせなら自分になつく、可愛くて元気な生徒にちやほやされたい。鞠和はそうじゃない。話しかけても反応は鈍いし、返事もしない。反抗的だ、腹が立つ。そんな相手に無償の愛情を与えるのは難しい。

 鞠和は諦めているのかもしれない。
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