【本編】
□【本編】四話
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授業が終わるとほっとする。
とくに勉強が好きなわけではないのだ。
けれど与えられる学習内容を淡々とこなしている間は、他のことを考えなくてもすむし、ある意味では気楽である――おかげでやけに授業に集中できてしまい、近ごろ無意味に成績があがって父親に「がんばってるんだな」と生温かいコメントをいただいた。
べつに、がんばってない。
むしろ、もっと大事な――全力で対決しなくてはいけない物事から逃げているみたいで、もやもやする。軍辞は溜息をつき、手早く宿題がでた科目の教科書やらノートやらを鞄に詰めこむと、そそくさと立ちあがる。
そしたら。
「軍辞」
顔見知りの男子が、逃がさないぞ、とばかりに近づいてきた。
陽に焼けた丸刈り。典型的な野球部員の見た目――体格は軍辞に比べてひとまわり小柄だが、前向きな青春を謳歌しているそのきらきらとした雰囲気は、近ごろとみに薄暗い軍辞を怯ませる。
「何だよ」
軍辞はぶっきらぼうに、目線を逸らして応えた。どうも、野球部員とは顔をあわせづらい。いっしょに集まって飯を食ったり、他愛ないお喋りをすることはできるが、まともに向きあうのはいやだった。
「おまえさ、近ごろおかしいよ」
彼はいきなり、単刀直入にそう言った。