【本編】
□【本編】四話
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「何かさ、急によそよそしくなってさ――野球できなくなったからって、いきなり友達じゃなくなったみたいな……ってか、巧く言えねーけど」
俺たちは友達だったのかよ、などと軍辞は思ったが、口にはださない。ふつうに教室や部活でいっしょになって、てきとうな会話ができる。その関係は『友達』と呼んでもよかった。
だけど、彼には絶対に――軍辞の気持ちはわからない。
「野球部としては、そりゃおまえは戦力にならないよ。だからって、俺らはいきなりおまえを捨てたりはしないっつか、見捨てない――ちがうな、いきなり他人ってのは寂しいじゃんかよ。悩んでんなら相談しろよ、俺たち仲間じゃんか」
仲間。友達、よりは近くなった気がする。
けれど、何となく違和感をおぼえるのだ。
人間が、弱ったり、困ったりした人間を同情し――助けるのは、自然なことだ。美しい。けれど、人間が猿を哀れみ、『助けてやる』などと手を差しのべるのは傲慢だ。
彼と軍辞の立場は、もう人間と猿ぐらいに遠い。ちがう種類だ、生き物だ。コミュニケーションはできない、きっと共感はできない。関わっても、意味がない。
お互いに、傷つくだけだ。
けれど、彼の言葉は素直に嬉しかった――野球ができなくなって、独りぼっちになった気がしていたから。これまで積み重ねてきたものが、すべて失われたと……。