【本編】

□【本編】五話
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 これ以上、何かが失われ、温かなところから遠ざかるのは我慢できなかった。

 みんなが語る「○×△」「◆☆*」という意味のとりにくい会話のなか、ふと視線を向けると、今日も鞠和は音楽室の座席、その最後列で突っ伏して熟睡していた。
 寝たふりではないようで、移動教室のときなど彼女はたまに置き去りにされている。厳格な教師だったらそんな彼女を叱りつけ無理やり起こすが、すぐに彼女は寝てしまい、暖簾に腕押し。

 家であんまり眠れてないのだろうか、などと想像するが、どうでもいい。
 自分の知ったこっちゃない。
 ならばなぜ、こんなに気になるのだろうか。

 昼食を終えたあとの、いちばん瞼が重くなる五時限目。
 ゆるやかに流れてくるクラシック音楽に、微睡んで――きゃあきゃあと騒がしい女子たちに、うるさいなと視線を向けたのが良くなかった。

 がしゃん、と異音がした。他の生徒たちはまだ気づいていないが、軍辞は見た。音楽室の隅っこで、車座になって座って、置いてあるギターで遊んでいた女子たち。楽器の扱いかたもわからずに、アイドルの真似をして弦をいじっていて――うっかり取り落とした。
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