【本編】

□【本編】五話
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 安物の木製ギターは床に叩きつけられ、ぽっきりと折れていた。「やばいよ」と女子のひとりがつぶやき、「あたし知らな〜い」と後じさる。落っことしてしまった女子はそういうわけにもいかず、折れた部分をくっつけたりしていたが、元通りになるわけがない。
 折り悪く授業が終わる五分前になって、時間には正確なネズミ男がひょこりと顔をだす。

 彼は陰気な顔を音楽室のなかに向けて、隅っこで固まって何やら様子のおかしい女子たちを見た。垂れ目がちのその双眸がぎらりと輝く。
 この教師は授業を真面目にやらないのに、お説教が好きなので有名だった。

 女子たちは絶対にただでは済まない。
 まぁ遊んでいて勝手に器物破損をしたのだ、自業自得だが――すぐに、事態は軍辞の思わぬ方向へ転がっていく。

 女子たちは、友情とか仲間意識から、一瞬で結託した。
 互いに目配せをして、恐ろしいほど迅速に意思疎通をした。

 震えて動けない、ギターを落とした女子を守るように、ひとりの女子が教師に向き直った。その指先は、音楽室の後ろのほうにいる――鞠和を指さした。

「憂奈木さんが、ギターを壊したんです」
 その言葉の意味が、軍辞には一瞬わからなかった。その刹那のうちに、女子たちは調子よく「そうそう」「でも逃げちゃって」「あたしたち直そうとして」などと、たわごとを繰りかえしている。
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