【本編】

□【本編】七話
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「え? あたしの発言は全無視ですか? えーと……軍辞くんは昔から唐変木のへたれ野郎でしたから、女の子と遊ぶより野原を駆け回ってたほうが好きでしたでしょ? 女の子と遊ぶなんて恥ずかしい! って感じだったでしょうし、たぶんお姉ちゃん以外とは口を利いたこともなかったんじゃないですか? だからお姉ちゃんと結婚しましょう?」

「冗談でもそういうこと言うなよ……」

 げんなりしつつ、軍辞はぼやく。

「『結婚』とかさ」

「ええ、あたしも普通の男と結婚するなんてげろげろですけど――軍辞くんとなら、元通りになるだけですからね。何も壊れない、奪われない、だからお姉ちゃんは軍辞くんと結婚したいです」

 にっこり微笑んで、哩音は道の向こうを指さした。

「あ! そこにあるお店がそうじゃないですか?」

 彼女の示した先には、ちいさなお店が並んでいる区画があり、そのひとつに『ペットショップ 東方不敗』という看板があった。店先にヒヨコやらハムスターやらが入ったケージが置かれ、覗きこんでみたものの奥は暗くて見通せない。

 勇ましい店名とひきかえに、寂れた、開店してるかどうかも不明な感じである。

「ここか……?」

「さぁ、れっつごうです♪」

 二の足を踏む軍辞の手を引いて、哩音が「こんにちはぁ」と店の扉を開け放ちながら、元気よく挨拶した。昔から、いつでも姉は軍辞を導いてくれる。

× × ×

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