【掌編】
□【掌編】十五話
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「わたしは麻呂中で恐れられる喧嘩番長! 煙草ぐらい、ちょちょいのちょいですわっ!」
「ふぅん」
「あ、信じてませんわね! その顔は! ほらマッチをお貸しなさいっ、……あなただけに背負わせたりしませんから」
ちいさな声で何だかよくわからんことをつぶやいて、まだ動揺が収まっていないのか上擦った声で。
「お手本を見せてあげますわっ」
マッチの箱を受けとったが、それを凝視して、不思議そうにしている。
マッチを取りだし、煙草に当てたり、いや火を点けろよ。
「おまえ、やっぱり――」
「え? いやその、ふだんはライターだから! マッチなんて使いかたがわからなくて――」
「ライターもあるぞ」
父の部屋から、ついでにチョロまかしてきた百円ライターを手渡してやった。自分もマッチの使いかたがわからないかも、と思って持ってきたのだ。
とまとは進退窮まって、煙草を口にくわえてから、ライターをぎこちない手つきでいじっていたが。
「あれ? あれっ?」
かちん、かちん、と音はでるものの、ライターは出火しない。
火花が散るだけだ。
「ほら、最近のは子供が悪戯しないようにってスイッチが独特のかたちになってるっぽいぞ。ここで火力調節だな」
軍辞も先ほどいじっていて、ある程度はライターについて理解していた。なので教えてやったのだが、とまとは侮辱されたみたいに真っ赤になって怒る。