【掌編】
□【掌編】十五話
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などと、椅子に体重を預けてぐだぐだしてから。
「あ、そだ――親父、辞書ぐらい持ってるかも」
ふとその可能性に思い至り、自室からでて階段をおりていく。
一階はとっぷりと暗い。
離婚をしてから父はあまり家に帰ってこなくなった。たぶん、別れた妻や娘の思い出が多すぎてつらいのだろう。アホらしい――とは思うが気持ちはまぁわかるので、軍辞はべつに何も言わないが。もう、しばらく父と会話らしい会話をしていない。
ついでに飲み物でも持ってくべと台所まで歩き、冷蔵庫からお茶のペットボトルを取りだす。生活費とお小遣いは、父が無言で部屋の前に置いてくれるのでわりとあり、お茶もコンビニで定価で買っている。
溜息をつき、父の部屋へ。
フローリングの廊下は靴下に冷たい。まだかなり寒い季節だ。ぶるっと震えながら、いちおう軍辞は父の部屋の前で、扉をノックしてみる。
「親父、いるか?」
すこし待ったが、返事はなかった。
父はたまに無言で部屋の片隅に蹲っていることがあり、精神が失調したのかと思ってびびるが――今日はほんとに不在らしい。気配がなかった。