【掌編】

□【掌編】十五話
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 ずうっと野球部の常識のなかで生きてきた。煙草を吸うやつもいた、けれどそいつは使えないやつの烙印を押された。チームプレイができない、肺機能が低下し運動できなくなる、野球部員としては落ちこぼれになる。
 けれど、軍辞はとっくにそういう意味ではがらくただ――過去の自分から脱皮し、新しい世界に踏みこむために。否、そんな格好いい理由ではない。両親が離婚し、野球部を辞去し、クラスでも浮き始めている、そんな憂鬱な現状の気晴らしぐらいになればいい。

 軍辞は煙草の箱を手にしたまましばし迷ってから、思いきって梱包のビニールを剥がし、銀紙に包まれた中身を露出させた。二十本、新品の煙草が収納されている。ぎゅうぎゅう詰めで、一本だけ取りだすのに苦労する。
 それをしばし持て余し、どうしたらいいんだ、と悩む。口にくわえてから火を点けるんだっけ、先に火か……? そんなことすら理解らない、ほんとうに――これまでは、興味の外にあったのだ。

 とりあえず口にくわえ、マッチを取りだした。これは学校の授業、理科の実験で使ったことがある。擦りつけると、驚くほどおおきな炎があがった。
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