【掌編】
□【掌編】十五話
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「あら、それ何ですの?」
――殺られる!?
大型肉食獣の口のなかに放りこまれたような恐怖に、軍辞は怯える。見られるわけにはいかない。幸い、まだ火を点けてないから匂いで気づかれることもないはずだ。手のひらのなかに煙草のシガレットを隠し、そっぽを向いて誤魔化そうとする。
「べ、べつに何でもねぇよ」
どうかしてた。
煙草なんか百害あって一利なしの代名詞みたいなものだ、安易に手をだしてあとで後悔しても遅いのだ。急速に醒めて、軍辞はとりあえずこの場をやりすごしてあとでこれは処分しよう、と決めながら。
「とまとには、関係ねぇだろ」
最近は下の名前で呼びあう仲である、だからこそ親しい相手にそんな態度をとられたのが気に食わないのか、とまとは眦を吊りあげて。
「あ! ひとりでこっそり甘いものでも食べてるんでしょう!」
何を勘違いしたのか、こちらに縋りつくようにして手を伸ばしてきた。
「見せなさい!」
けれど軍辞も意地になって隠そうとするものだから、とまとは興奮して「見せて! ですの!」とむぎゅむぎゅ身体を押しつけてくる。おおきな乳房が軍辞の身体に押しつけられて、ぐにゅりと潰れる。その感触と、慣れない女の子とのスキンシップに軍辞はもっと慌てる。