【掌編】

□【掌編】十五話
9ページ/16ページ

「ちょっ、こらっ! 落ちつけって!」

 うーうー唸りながら夢中で手を伸ばしているとまとを見て、すこし感慨深くなる。こいつ、男嫌いだったはずなのに、自分にはこんなふうに開けっぴろげに接してくれている。これは気をゆるしてくれている、ということなのだろうけど――。

「もーっ! 意地悪!」

 頭から湯気をたてて怒っているせいで、何も考えられなくなっているだけかもしれない。野牛みたいなやつである。
 思いつつも。

「お、おまえ――当たってる! 当たってるから!」

「? 当たってるって何が……?」

 そこで、はっと彼女も気づいた。完全に抱きついているような格好になっている。
 とまとは今度こそ、耳まで完全に紅潮すると。

「ば、ばかーっ!」

 思いっきり殴ってきた。
 その怪力にはたまらず、軍辞は「げふっ!?」と身を折ってその場に崩れた。何だこのラブコメみたいなの。だがお気楽な状況とは裏腹に、ダメージは現実的だった。咳きこみ、その手のひらからぽろっと煙草の箱が零れる。

「ん?」

 小動物的に、とまとが素早くそれを拾う。今度は立場が逆転だ、軍辞が「か、返せ!」と手を伸ばし、とまとが驚いて逃げる。きゃあきゃあ騒ぎながら。

「何ですの軍辞っ、ばかっ! 時と場合を考えなさい!」

 ダッシュで距離をとってから、とまとは息を荒らげたまま、あらためて自分の拾ったものを眺めて。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ