【掌編】
□【掌編】十六話
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「ようこそ、歓迎いたしますわね――わたしがこの家の当主、月吉みるくでぇす♪」
やけに可愛らしい声に出迎えられた。
先ほどの禿頭の男は玄関前の警備をするのが役目なのか、ついてくることはなく、僕らは靴を履いたまま洋風の邸宅のなかへ。室内はほどよくあったかく、やはりTVでしか見ないような、あるいはお人形さんちのおもちゃハウスみたいな美麗さだった。
つくりものっぽい、とすらいえる。映画の張りぼてみたいだ。
この建物はいわゆるゲストハウスなのだろうか、土足であがるのを躊躇するようなぴかぴかに磨かれた大理石の床。細緻な彫刻が施された柱。開け放たれた窓には優雅にレースカーテンがたなびき、添えられた花瓶では可憐な色彩が揺れている。
どこからか、クラシックの生演奏が聞こえてきている。
何だこれ……。
僕は挙動不審にしながら、姉の背後にそっと隠れて(人見知りの子みたいであれだが、何かあったとき姉を盾にできるようにという考えである)前方を窺う。
そこに、光り輝くような、きれいなひとが立っていた。
小柄な女性だ。年上だろうけれど、『可愛らしい』という以外の表現を思いつかない。ゆるやかに背中まで垂れた乳白色の髪の毛。肌も何だか真っ白で、穢れない天使みたいだった。時代感覚を忘れるようなドレス姿で、絵本から飛びだしてきたみたいだ。
えらく幼く見える童顔で、同年代どころか小学生ぐらいにしか見えない。ちいさくて、ちょっと怒鳴ったら泣きだしてしまいそうだ。
「とまとちゃんの、母親ですの♪」
耳に心地よいソプラノボイスに偽りが含まれていないなら、僕の親と同い年ぐらい――すくなくとも三十代後半のはずだけど、若すぎる。そういえば、とまとも胸元以外は幼い感じだったし、不老不死の一族なのか月吉さんちは。