【掌編】
□【掌編】十六話
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あるいは、金持ちだからよいものばかり食べてるとこうなるのか。
などと、どうでもいいことを考えていたせいで僕は挨拶もできずに、まじまじと目の前の女性――みるくさん、とやらを眺めた。
変な名前だけど、このひとには似合っている気がした。
お化粧をしているせいか、初雪のような肌で、それこそお人形さんみたいだ。笑顔も、よく見るとぴくりとも動かない、仮面でも嵌めているんじゃないだろうか。
手で押しただけで死んでしまいそうな華奢さなので、べつに威圧感はないけれど、なぜか底知れぬ迫力を感じて警戒してしまう。
月吉さんちの当主は、これも白い長手袋を嵌めた指先で、自分のほっぺを指さして。
「気軽に、みるくちゃん♪ って呼んでね♪」
「はぁい、よろしくお願いしますね――みるくちゃんっ!」
姉がまったく物怖じしない態度で、気軽に片手を挙げる。あんたのその誰に対しても失礼、いや動じないところはすこし尊敬できるよ。真似はしたくないけど。
僕は姉の背中を肘でぐいぐい突くと、小声で。
「おい、いいのかよ姉さん――そんなフランクな感じで。このひと、偉いひとなんじゃないのか。『ちゃん』づけで呼ぶなよ」
「え〜、いいじゃん、向こうが『そう呼べ』って言ったんだし〜。文花ちゃんは細かいところを気にしすぎだよ、人生もっとお気楽に乗りこえちゃおうよ☆」
「姉さんはもうちょっと考えて生きるべきだ、……あと僕も『ちゃん』づけするなって何度言えばわかるんだよ」