【掌編】

□【掌編】十六話
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「あらあら、仲良しさんなのね♪」

 みるくさんは微笑ましそうにこちらを眺めると、能面みたいな笑顔のまま。

「とまとちゃんったら、自分からみなさんを呼んだくせにまだお洋服とかの準備に手間取ってるみたいだから――すこぉし、待っててくださるかしら? お茶とかでも楽しみながら、ね♪ 鷹丸さん、みなさんを客間にご案内して?」

「了解です、奥さま」

 応えたのは、みるくさんの存在感がありすぎたせいか――そこに立っているのに気づかなかった、ひとりの青年だった。否、こうしてあらためて視線を向けても何だか曖昧な印象の、妙に気配の薄い人物だ。
 彼は壁際に背中を預けていたが、頷くと、身軽にこちらに近づいてくる。

 奇妙な青年だった。こちらも、みるくさんほどではないけれど童顔で、僕よりちょっと年上ぐらいに見える。年齢不詳だった。ちりちりとした焦げ茶色の髪の毛。先ほどの禿頭の男と同じように黒スーツ姿だが、サングラスはかけていない。
 その代わりに、片目を医療用の眼帯で覆っていた。頬から額にかけて無惨な疵痕があって、どうも眼球がひとつ潰れているらしい。それが、幼く見える男をどことなく危うく感じさせる理由だった。

 闇のなかに片足を突っこんでるような、裏社会の住民――みたいな雰囲気。小鳥が囀る昼間、明るい光のなかこんな可愛らしい空間に立っているのが違和感をおぼえるぐらいだった。
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