【掌編】
□【掌編】十六話
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本人も何となく居心地が悪そうで、足音なくこちらに歩み寄ってくると。
ポケットに手をつっこんで。
こちらを、斜に眺めてくる。
ちんぴらみたいな態度だった。
「あんたは……」
鷹丸と呼ばれたその青年は、姉を見てすこし驚いたようだったが。
「チッ、お嬢も友達を選べばいいのに。よりにもよって――」
「やぁ、あなたも――久しぶりですね」
姉は余所行き用の胡散臭い笑顔で、眼鏡を輝かせて。
「今日は弟の付き添いみたいなもんだから、悪さをするつもりはないですよ。だから、そう警戒しないでください」
「ふん、おまえらごときに警戒なんてしやせんよ。まったく、どいつもこいつも変なのばっかり集まってきやがる。常識人は俺だけですよ」
ぶつぶつ言いながら、顎をしゃくって廊下の奥を示すと。
「ま、せいぜい大人しくしておくんですね――マジで、頼みますから」
言うと、こちらに背を向けて、かるく手招きしながら歩きだしてしまう。
「それじゃ、ごゆっくり♪」
みるくさんは深々とお辞儀して、しゃなりしゃなりと去っていく。
最後まで、その清らかな笑顔は揺るぎもしなかった。
× × ×