【掌編】
□【掌編】十六話
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「ほんとに、きてくれるなんて――わ、わたし、どうしよう……」
もじもじしている。
姉はそんな月吉を眺めて、にこやかに。
「その服、似合ってますね――とても可愛らしいですよ」
僕以外には丁寧語な姉のお世辞に、月吉は「……!」と縦に伸びあがるように驚いて、天にも昇りそうな幸せそうな表情をした。
僕はそんな彼女を呆れて眺めつつ、姉さんの横にちょこんと腰かけて。
そのお腹に、肘打ちをしてみた。
「おい、姉さん」
「げふうっ!? 何かな文花ちゃん、ってかいちいち話しかけるごとに攻撃するのやめてほしいんだけど――ほら、私ってばか弱いんだから。労ってほしいよ」
「前から疑問だったんだが」
姉の言葉は無視し、小声で囁いてみる。
「おまえ、どうやってこの猛獣を手懐けたんだよ」
「え〜、私が女の子から好かれるのは私だから仕方ないじゃないか。自然の摂理だよ」
「姉さんが他人に愛されてるところなんて見たことないよ」
「何なに、やきもち? だいじょうぶだよ、私がいちばん愛してるのは文花ちゃ――ごふっ!? だから暴力反対!」
背中を叩いてやると、姉はおおげさに咳きこんで。