【掌編】
□【掌編】十六話
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褒められて、とまとは湯気をあげてしまう。ていうかこいつ、赤面性なのかな。名前のとおりトマトみたいに真っ赤になってるんだけど、心配になるぐらいに。
ていうか、こいつが真面目な良い子だと――どこらへんを差してそう言ってるんだ、姉さん。僕、こいつに殺されかけたんだけど。
などと無言で怨念を放ってみたが、姉さんはどこ吹く風。
「ともあれ、こうしてお近づきになれたのも何かの縁です。今日はね、君にひとつ頼みごとをしようと思ってるんですよ」
「な、何でしょう? 先生のためなら、誰だってやっつけてやりますのよ!」
握り拳をつくってそう主張されたが、やっつけられても。こちらに「ちら、ちら」と熱っぽい視線を送られるので、身の危険を覚える。もう二度とあんな大立ち回りは勘弁だよ。
警戒していると、姉さんは微笑んで。
「文花ちゃんと、仲良くしてやってほしいんです」
妙なことを言いはじめた。
「文花ちゃんは性格が意地悪でね、友達がなかなかできないんです。照れ屋さんなんですよね。ですから、せっかく同い年なんですし――今後も、お友達として付きあってやってほしいんです。お年頃の女の子どうし、弾む話題もあるでしょうし♪」
「僕は男だ」
何をよくわからんことを言っている、と怒りをこめて睨んでやったが、姉は相変わらず飄々としている。戸惑う月吉に、眼鏡の奥から真摯な双眸を向けて。