【掌編】
□【掌編】十六話
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「ついでに、この子といちばん親しい――水無月くんともね、仲良くしてほしい」
「水無月? あぁ、『あっくん』ですわね」
月吉は僕ですら畏れ多くて口にできない、てきとうな愛称を口にする。どうも、彼女の所属する〈秘密結社〉とやらでは互いをコードネームのようなもので呼ぶらしい。
「あまり顔を見たことはありませんが、先生が言うのなら――」
「うん、お友達になってあげてほしい。寂しい子なんだよ、とっても」
「おい、姉さん。知ったような口を叩くなよ、姉さんがあくあの何を知っている」
踏みこんでもらいたくない領域というものはある。
せいいっぱいに怖い声をあげつつ、姉さんの靴を思いっきり踏みつけてやったが、姉さんは面白そうに笑うのみ。
「こんな具合にうちの弟はもう、洗脳されてるんじゃないかと思うぐらいに水無月くんにべったりですからね――それも不健全だと思うし、もっとこう、一般的な中学生っぽい遊びとかにも誘ってやってほしいんです」
僕を片手であしらいながら、姉さんはさぞ素晴らしい提案でもしているように。
「どうですか、今度みんなでいっしょにどこかに遊びにいきましょうよ。健康的に、キャンプとかがいいですね。釣りをして、山登りをして、バーベキューをするんです」
そんな元気なことしたら、あくあは倒れると思うんだけど。