【掌編】
□【掌編】十六話
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誰かを倒せ、という命令ならわかりやすい。でも仲良くしろなんて、どうしたらいいかわからない。意味もわからない、あくあはいったい何を考えているのだろう。
「あくあ……」
会いたいな、と思いながらはだかのまま、濡れて重くなった髪の毛先を指でいじっていると。
「失礼いたしますわ」
当たり前のように、唐突に浴場の引き戸を開いて月吉とまとが姿を見せた。
びくっとして振り向いた、僕の視線の先――。
ぼんやりした湯気の向こうに、とまとは一糸もまとわぬ全裸で立っている。相変わらず小学生のような幼気な肢体に、不似合いな胸元の膨らみ。タオルでそっと肌を隠し、なぜか片手に日本刀を握りしめている。
すわ討ち入りか、いつから幕末になったんだと混乱していると――とまとはこちらを一瞥し、ふんわりした笑みを浮かべた。
「あっ、そんなところにいたんですの?」
「な、なっ――」
僕はキョドりながらも、ざぶざぶと飛沫をあげて壁際まで後退する。ごつん、とマーライオンみたいな石像に頭をぶつけつつ、さすがに赤面して。
「何で――」
「せっかくですし、ご一緒しようかと思いまして。どうせ広いお風呂ですし、構いませんでしょう? それとも迷惑だったかしら――」
「迷惑というかっ」
僕はこの非常識な女の子に、必死に主張した。