【掌編】
□【掌編】十六話
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彼女はそのまま、なぜか風呂場にある刀置きに凶器を丁寧に飾ると、髪の毛を結いあげタオルで固定してから、「〜♪」と鼻唄混じりに身体を洗い始めた。泡だらけになった肌にお湯を浴び、一段落してからほんとに僕のいる湯船に爪先をつける。
そのまま、一気に入ってきた。
飛沫が跳ねあがる。
豪快だなあ……。
僕はお風呂の隅っこ、マーライオンの陰に膝を折って隠れ、極力――月吉のほうを見ないようにするしかなかった。嫁入り前の女の子の、しかも特上のお嬢さまの肌を見たとあれば、本人が気にしなくても周りが僕を「痴漢め!」って成敗しにきそうだし。
僕は口元までお湯につかって、ぶくぶくと泡を吐きながら。
心頭滅却する。
あくあ、僕を守ってくれ――。
「何をぶつぶつ行ってますの?」
玉のお肌に雫を散らして、妙に色っぽい月吉がこちらを申し訳なさそうに見た。
「今日はその、無理を言ってごめんなさい。お陰で、楽しい休日になりましたの」
「いいよべつに、僕は役目を果たしただけだ。だけど素直に疑問だから聞くけど――姉さんのどこがいいんだ? 弟として忠告しておくが、あれは関わっても害しかないたぐいの人種だよ?」
「酷いこと言いますわね」
とまとは頬を赤らめて。
「そうね、優しいところが好き――」
独り言のように。