【掌編】

□【掌編】十六話
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 真っ直ぐな、穢れなき口調で。

「〈秘密結社〉は、わたしたちまともな日常に居場所をなくした子供たちが、最後に行きついたところ。泣いたり笑ったりできないでいると、人間は壊れていく。そうならないために、お互いを支えあっている、か弱い集団ですわ。できれば、いじめないでほしいですけどね」

 困ったように。

「それに、あっくんだってきっと、〈秘密結社〉になら居場所を見つけられるはずですわ。だからこそ、まりりんも彼が〈秘密結社〉の一員になることを認めたのでしょうし」 

 あくあの愛称を、さりげなく口にして。

「〈秘密結社〉が、あなたたちの敵ではなく、ようやく辿りついた心安らげる場所になれば幸いですわ。わたしたちは受けいれます、きっと――あなただって」

 僕の頭のなかを覗きこむように、すこしだけ顔を近づけて。

「わたしも、むかしは周りをぜんぶ敵だと思ってましたわ。無理解な教師やクラスメイト、嘘ばかりの家族、窮屈な法律や常識――尖って、噛みついて、他人に馴れない野生動物みたいに。でもね、そんなわたしを抱きしめてくれるひとたちがいましたの」

 おおきな胸元に手を添えて、しみじみと。

「いま、幸せですの。〈秘密結社〉のみんなと出会えて、これ以上ないぐらいに。強制はしませんわけど、できれば似たものどうしなのですし――仲良くしていきたいものですわ」

 濡れた髪の毛の一房が、垂れさがって、その頬に貼りついている。
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