【掌編】

□【掌編】十六話
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 僕はくだらないことを考えている、と思って首をふり――雑念を散らす。何を期待してるんだ。あくあを救えるのは、支えられるのは僕だけだ。それが僕の喜びで、存在意義なのに。他人に、己の役目を仮託しようとしている。

 それは裏切りだった。

「おい」

 僕はいつの間にかずいぶん近くにいた月吉の、垂れさがった三つ編みを掴むと、思いっきり顔を寄せた。「きゃっ!?」と悲鳴をあげる、近くから見るとことさらちいさい彼女を、威圧しながら。武装するように、怖い顔をして。

「調子にのるなよ。立場を弁えろ、おまえらが矮小な、吹けば飛ぶような集団なのはわかったよ――ならそれを自覚して、『助けてやる』みたいなだいそれたこと言うな。あくあは、おまえらを好奇心で弄んで、利用して捨てるだけだ。これまでどおりに、ずっと――そうしてきたみたいに」

「あらそう」

 月吉はむしろ面白くなってきたというように、僕を間近から睨めあげると。

「それなら、かかってらっしゃいな――どうぞ、お手柔らかにね。わたしも、最近はのんびりしすぎて退屈してましたのよ。荒事で解決できるなら、それもまた一興」

 真っ赤な髪のモンスターは、肉食獣のような眼光を煌めかせて。
 でも、優しい笑みをたたえたまま。

「本気で喧嘩しなくちゃあ、互いのことなんてわかりませんもの。わたしも、そうやって〈秘密結社〉の一員になった。わたしがいちばん最初にこうしてあなたたちと関わったのも何かの運命――付きあってあげますわよ、地獄の果てまで」

 楽しくなってきましたわ、というように。

「短くて、でも輝かしい青春を――どうぞ、ともに舞い踊りましょう」


 決闘か、あるいは舞踏会にでも招くように、恭しく。

× × ×

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