【掌編】
□【掌編】十六話
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「文花さん、おいでおいで――ですの♪」
一緒にお風呂をしたせいか妙に馴れ馴れしくなった月吉が、手招きしてくる。パジャマ姿ですこし湿った髪の毛もおろしていて、何だか子供っぽい。
彼女の広い自室である。
これだけデカい屋敷なんだから客間のひとつもありそうなものだけど、月吉の強い希望から何の因果かいっしょの部屋で寝ることになったのだ。中学生とはいえ、無防備すぎる。男と女だぞ、事故があっても知らんぞ。
いやもちろん、僕の心はあくあに捧げているのだから間違いが起こりようがないのだけど(たとえ襲いかかったとしても月吉には斬り捨てられてお終いだろうし)、迂闊なことをしたら黒服が飛んできて取り押さえられそうで怖い。
落ちつかない。
「さぁさぁ、どうぞ――リラックスして寛いでくださいな♪」
言いながら、月吉がホットミルクだのお菓子だのを並べてご満悦である。
「寝る前にそんなカロリー摂取したら太るぞ」
「たっぷり栄養つけて、おっきくなるんですの♪」
「乳が増えるだけじゃないの」
「む、胸のことは言わないで!」
月吉は赤面すると己の立派すぎる乳房を隠すように両手で覆い、ベッドに女の子座りしてこちらを睨んでくる。