【掌編】
□【掌編】十六話
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「ははぁん、文花さんったら――羨ましいんでしょう」
「何を言ってるかわからん。僕は男だから、胸なんてあっても邪魔なだけだ」
「まだそんなこと言ってますの?」
いまだに僕が女の子だと思ってるような口調である。いっしょの風呂にまで入ったというのに――むかつくが、まぁいい。
むかしから、そういうふうに見られるのは馴れている。いちいち「僕は男だ」と否定しつづけることに徒労感を覚える、そう見たいなら見ればいい。
「まだちょっと、寝るには早いですわね」
足をぱたぱたして、湯気のたつホットミルクを口元に運びながら。
「文花さんは、いつも寝る前とか何をしてますの?」
あくあのことを考えたり。あくあと電話したり。妄想のあくあと会話したりしているよ――と素直に言うと人格を疑われそうだったので、僕はふつうに。
「最近は勉強ばかりさせられてる。予習と復習――定期考査の結果がよくなかったから」
こないだ赤点とったせいで、みっちり詰めこみ教育をされてるのだった。うちの両親と姉はそういうとこ生真面目なのである、お勉強よりも大事なことが世の中にはあるはずなのに、という僕の主張は無視された。
「お勉強、教えてあげましょうか?」
月吉が心配そうにそう言った。ちなみに、こいつはいつでも学年上位の成績を誇る秀才である。暴力事件さえ起こさなければ、かなり優等生なのだ。ほんとに、日本刀さえなければ品行方正で学業優秀な完璧なお嬢さまなんだけどな。