【掌編】
□【掌編】十六話
33ページ/37ページ
「だって、やったことないの――むかしから、お友達とかいませんし。こんな広いお屋敷でしょう、家に招いたらみんな引いちゃうみたいで。かといって、公園とかで遊んでると家のひとが『汚いから』って連れ戻しにくるし」
箱入り娘だったんだな、意外と。学校では暴れ回ってる印象しかなかったけど、ほんとに大事に育てられたお嬢さまなのだ。
知らず同情するような表情になっていたのだろう、僕の視線に気づいて月吉は「はっ」と顔をあげると、無意味に胸を張って。
「ま、まぁいいですわ――でも、このままだらだらするのも時間の浪費ですの。何かして遊びましょう、あなたは勝負事とか好きみたいですし……チェスとか?」
「ルールがわからん」
「あなたって、つまらないひとね……」
よく言われるけど。おまえらが無駄に個性的すぎるんだよ。
「おまえなぁ、僕は敵だぞ――おまえらを利用してやるつもりで近づいたんだと、わざわざ教えてやっただろうか。何でそう、仲良くしようとしてくるんだ」
「わたしはまだ、あなたたちを敵と思ってませんもの。それに、どんな相手とも親しく、お友達みたいになってはいけないなんて法律はありませんわよ♪」
ほんとに、こいつは――寂しがり屋というか、甘えんぼというか。愛を知らずに育った、きれいな箱庭に閉じこめられた、お姫さまだ。やっぱり、僕は同情してしまう。
すこしの共感もあった。