【掌編】
□【掌編】十六話
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尖って、周りを怖がって警戒して、争ってばかり――噛みついてばかりで、愛してくれるひとがいなければ、壊れてしまうような。あくあがいなければ、僕はもっと卑屈で落ちぶれた生き物になっていた。
彼女も、きれいなショーケースのなかで可憐なおべべを着せられて、そのまま宝の持ち腐れでずっと閉塞した毎日を生きていたのだろう。〈秘密結社〉に出会って、彼女の鍵はあけられたのだ。あくあに忠誠を誓った、僕と同じように。
何だか月吉が他人とは思えなくなって、意地悪しているのも面倒になると。
僕は溜息をついて。
「じゃあ、いいよもう――おままごとで」
僕はそのへんに置かれたぬいぐるみを手に取ると、わきゃわきゃと動かしてみた。月吉は、こっちが驚くぐらいに「ぱぁっ♪」と満面の笑みになって。
ベッドから降りてくると、僕の横、肩が触れるぐらいの距離に座ると。
着せ替え人形を手にして。
声色を変えて。
「『おやびん、てぇへんだ! 三丁目の門で殺人事件でやんす!』」
「時代設定というか状況がわからん、何だそのおままごとは――ふつう、どっかの家族の何気ない日常とかをやるんじゃないのか、知らないけど」
「ふつうの家庭って、よくわかりませんし」
月吉は何だか寂しいことをつぶやいて、はにかんだ。