【掌編】

□【掌編】十六話
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「だから時代劇っぽくしてみました。好きなんですの、祖父が。だから幼いころからよく見てましたわ、大河ドラマ、水戸黄門、暴れん坊将軍……」

「渋い趣味だな」

「わたしはべつに好きでも嫌いでもないんですけど――祖父は刀工でね、それを父が事業を拡大して、今は全世界に武器のマーケットをもってますの」

 武器商人。 
 その不意に飛びこんできたきな臭い話に、僕は身を竦ませる。同時にどうりで、とも思っていた。武器商人の家系なら、このような豪勢な屋敷など資産のほんのちょびっとで購入できるだろう。最も儲かる産業のひとつなのだ。

 人間が、他人を憎み殺す生き物であるかぎり、需要はなくならない。
 血まみれのマーケット。

 身近に武器が置いてあるのも、そんな境遇だったからなのか。でも、月吉は何だかそれが気に食わないというように、くちびるを尖らせて。

「でもね、いくらお金を儲けられるとしても、誰もが求めるとしても――武器なんか、やっぱり他人を傷つけるだけ。わたしは、身をもってそれを知ってます。自ら孤独になるために、努力をするなんてつまらない。だから、わたしが跡を継いだら、兵器マーケットをそのままぬいぐるみとか、おもちゃとかの流通に変えちゃうつもりですの♪」

 可愛らしい、きっと叶うことはないだろう、幼い願望。
 兵器は嫌なものだ。ひとの命を奪う。最低の、おぞましいものだ。

 だから、なくす。代わりに、子供たちが喜ぶものを配ろう。
 月吉の語る言葉は、甘いけれど尊い。
 素晴らしい。
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