【掌編】
□【掌編】十六話
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姉のバイクに乗っている。
僕としてはこの姉にこうして世話になるのは屈辱以外の何物でもなかったのだけど、今日ばかりは諸事情あって仕方ないのだ。あぁ忌々しい。
この姉は美青年めいた見た目と同様に妙に男らしい趣味に傾注していて、バイクもそのひとつである。教師の安月給をつぎこんでやたらゴツい代物に乗っており、何かあれだ、正義の仮面ヒーローか暴走族みたいだった。
排気ガスがけむいので、僕は苦手だけど。
部屋で読書とか編み物とかをしていたい――。
「文花ちゃん、しっかり掴まってなさい。落ちたら大怪我しちゃうよ」
姉が男性的な低い声でつぶやいた。
運転中のバイクで、風の音がすごい。姉はヘルメットをかぶっているから声もくぐもっていて、それでも聞こえるのは姉弟だからか。
僕はそう思い、何だか苛ついて。
「『ちゃん』づけで呼ぶな。ただでさえ女の子みたいな名前で嫌なんだ。だいたい、なるべく姉さんに触りたくないし。この姿勢は屈辱的だ、落ちて死んだほうがましだ」
「何でそんな寂しいこと言うんだよう、お姉ちゃんをぎゅうって抱きしめてよ〜。文花ちゃんの愛を感じさせてよ〜。もっといっぱい甘えてよ〜」
「キモい」
いつもの会話をしながらも、まぁこんなアホなことで死ぬのも不本意ではあるので――仕方なく、姉の背中にしがみついた。顔を押しつけ、振り落とされないように努める。汚物に触って穢れても、僕のことを嫌いにならないでね、あくあ。