【掌編】
□【掌編】十六話
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ライダースーツをまとった姉はお世辞にも抱き心地がよいとはいえず、ごつごつとしていて、けれどその奥に熱い体温と柔らかさを感じる。震動も相俟って、何だか眠くなってしまった。昨日は不安でよく寝れなかったし。
「よしよし」
満足そうにつぶやいてから(むかつく)、姉は快調に飛ばしていく。町の景色がすごい勢いで後ろに流れていく。乗り物は苦手だ、酔うし怖いし最悪……。
何でこんなことになったのか。
僕は気を逸らすために思いだしてみる。
それは当然――休日の貴重な時間をそんなことに使うのははなはだ不本意だけれど、あの学校一の暴力女、月吉とまとに会うためである。
「しかしまぁ、いつの間にあの娘と友達になったの?」
姉が不思議そうに尋ねてくるので、僕は舌打ちして。
「べつに友達じゃない、僕だってあいつの危険度は承知している――できれば関わりたくない。でも、あくあの命令だから」
「見あげた忠誠心だねえ、いやぁ羨ましい。その愛情の百万分の一でもお姉ちゃんに向けてくれるといいんだけどね?」
「僕のすべては、あくあのものだ」
月吉とまと。
校内に存在する怪しげな組織、〈秘密結社〉の一員。そこに属しながらもあのあくあがいまだその内情を掴みきれていない、どういう集団なのかも曖昧なあの連中を、僕が調べる。そのための橋頭堡として、とまとを利用する。