【掌編】
□【掌編】十六話
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玄関までけっこう歩く。白石が敷きつめられ雑草が生えないようにされた通路を、ふたりで。道のほとりに池があって、鯉が泳いでいた。ここだけ和風だな、むかしからある池なのだろうか――。
しかし何だろうか、この広さは。道の幅からいって、住んでる連中は車で移動するのが基本なのだろう。バイク、門の前でとめなければよかったのに。それも不作法なのだろうか、よくわからん。
姉の、とても女性とは思えない長身の背中を眺めながら、そんなことを考えた。気が散っている。だいたい気が進まないのだ、あくあの命令とはいえ。理由を見つけてとって返したいぐらいだ、正直。
「ま、いちおう注意をしときなよ」
姉が目を細め、まるで周囲を警戒する鳥類のように。
「今は私たちとここんちは友好関係だけど、そうかんたんに仲良しこよしにはなれない――どんな喧嘩ふっかけられるかわかんないからね、おとなしくしときなさい。文花ちゃんは誤解されやすいから、無駄に誰かと諍いを起こしそうでお姉ちゃんは心配だよ?」
「どういうことだ。あと『ちゃん』づけするなと何度言えば、……!?」
いつもの会話をしていて、油断していた僕は、不意に寒気を感じて立ちすくんだ。
いつの間にか僕らは通路を踏破し、屋敷の玄関前に到着していた。
華やかに飾られた玄関扉の正面。
そこに、厳めしい男が座っていた。