【掌編】
□【掌編】十七話
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げしげしげしげし。
「ってやめて! 蹴らないでってば! ひとがせっかく理解あるおとなとして良いことを言ってるのに!」
「あんたに、んなもん求めてねぇのよ。いいからあんたは車を動かす機能のみを発揮してなさいよ、それしか取り柄がないんでしょうが」
「うう、暴君だ……」
涙目になりつつも、とりあえず発進。壊れそうな音をたてながら、おんぼろは上下左右に揺れつつ走り始める。このあたりは畑しかないから、平日の昼間は人間が滅んだみたいに静かだった。
のどかな風景のなか。
「んで、どちらまでお送りすりゃあよろしいんでしょうかね?」
「標的はまだ校門のそばにいるはずよ、とりあえずこの学校の正門だから――逆方向までぐるっと車を廻しなさい、運がよければすぐに見つかるわ」
「誰かを追いかけてるんすか? 荒事は勘弁っすよ? つか呼びだすなら最初から正門にしてくださいよ、この学校、無駄に広いんすから――」
「ぶつくさ言ってないで、どんどん飛ばしなさいよ。ちんたら走らないで、スピードの向こう側まで飛びだしなさいよ」
「んな速度、最初からでませんってば。うちのミカエルちゃんはどれだけアクセル踏んでも法定速度を守りつづける良い子なんですから」
エンジン死んでんじゃないの? この車?