【掌編】

□【掌編】十七話
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 思いつつもしばらく運転に身を任せていた。何もなくて平和だけがあって、日当たり良好な我が故郷。ろくな対向車もなくすいすい進み、すぐに正門のそば――のたくた走っている焼き芋の販売カーのそばに、憂奈木デイジーを見つけた。

 彼女は買ったらしい焼き芋の袋を片手に、ぼんやりと、なぜだか販売カーの後ろをそっと歩いている。相変わらず何を考えてるのかわかんない娘ね……。
 ひとが歩く速度よりも遅く、ゆっくりと走る販売カーには、その気になれば追いつけるはずだけど。興味ぶかそうに、そのあとをハーメルンの笛吹男に付き従うみたいに、盲目的についていっている。

「あの娘のそばまで寄せてちょうだい」

「ん? あぁ、何すかあの娘――お友達っすか?」

「ただのクラスメイトよ」
「じゃあいったい、何でなん――って蹴らないでくださいってば! 暴力反対!」

 チャラ男の悲鳴をBGMにしつつ、ボロ車の窓を開いて、あたしはすぐ横に見えてきたデイジーに呼びかける。

「憂奈木さん」

 デイジーはすこし驚いたように、長い前髪で隠されていないほうの片目をこちらに向けて――小首を傾げた。もぐり、むしゃむしゃ……と焼き芋をぱくつきながら。その小動物の仕草がたまらなく可愛らしい、きゅんきゅんしちゃう。
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