【掌編】
□【掌編】十七話
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高鳴る鼓動を必死に抑えていると、デイジーはぼうっとした表情で。
「亡々宮さん、だっけ? どうしたの、学校は?」
「こっちの台詞よ」
言いつつ、あたしはデイジーをじっと観察する。
彼女は周りに他に誰もいないことを確認し、あぁ自分に声をかけているのだろうな――と察するような、悠長な態度をとっている。根本的に、自分が他人に興味をもたれるわけがないって、諦めているみたいだった。
けれど、あたしはそんな彼女だからこそ――目を離せないのだ。
いつも何だか浮き世離れしたデイジーは、口元の食べかすを手の甲で拭うと。
「何か用?」
それだけ端的に問うて、さしてこちらに関心を払わなかった。無口な子だった。
「えっとさ――」
あらためて問われて、あたしは困ってしまった。ありていに言って、彼女を追いかけたのは気になったから、つまり単なる好奇心である。いつものあたしなら、てきとうな言い訳でも口にして煙に巻くこともできたのだけど。
デイジーは、真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
どんな誤魔化しも通用しない、野生の獣のようだった。
あたしはそんな彼女にどうでもいい嘘や誤魔化しをするのは、何だか卑怯というか、恥知らずな気がして――驚くほど素直に、言っていた。