【掌編】
□【掌編】十七話
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デイジーは何だか死んだような目つきで、ぼんやりと。
「授業は教科書の内容を読めば理解できるから、それ以外のことをお勉強しておこうって思ったんだ。あたしがいろいろ知ってれば、次の――妹に、教えられるし。大事なこと、そうでないことぜんぶ。同じ無駄な時間を妹にまで繰りかえさせたくないから」
にっこりと、思わずこっちが怯むような笑顔を見せてくれる。
よっぽど大事なのね、その妹さんが――。
何だか悔しいような妙な気持ちを抱えたまま、あたしはそんなような、毒にも薬にもならぬ話をしながら彼女を追いかけつづけた。陽が沈むまで、まったりと。
チャラ男もやがて諦めたのか、運転してるだけで楽しいのか、何も言わずにただ車を転がしつづけてくれた。
焼き芋屋さんは女子中学生といかにも怪しいボロ車に延々と尾行されて怖くなったのだろう、やがて猛スピードをだしてどこぞへと走り去っていく。
あたしは「うちの車に乗れば? 追いつけるかもよ?」と提案してみたのだけど、デイジーはゆっくり首をふって。
「ううん、いいんだ――できるだけひとの助けは借りたくない。あたしじゃあ、走ってもあの車には追いつけない。身の丈にあった限界まで辿りつけたら、そこでお終いだよ。授業も終わっちゃっただろうし、あたしはもう帰る」
「送ってあげましょうか、家はどこ?」
「だから、いいって――べつに、あたしにできることは少ないんだ。それを、取らないでほしいよ、亡々宮さん」
くるりと踵を返し、黄昏で照らされた世界で。
「ほら、あたしにつきあっても面白いことは何もないよ」
だから、と。