【掌編】

□【掌編】十七話
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 そして、激動の春がくる。
 長らく正体不明だったデイジーの妹――まりりんこと変な名前の鞠和ちゃんにも出会えたし、デイジーへのいじめは加速度をつけて、彼女を蝕んでいた。本人は毛ほども動じていないような顔をして、でもストレスを感じていないわけがない、日に日に顔は強ばり髪も艶を失っていった。

 愛されつづけていないと、人間はうつくしさを保てない。
 打ち捨てられた捨て猫みたいに、彼女は擦りきれていった。

 あたしの周囲は何も変わらず、けれど水面下から毒がにじみでてくるような、異様な怖気があった。
 けれど、それを打ち消すほど――今年の秋に予定されている修学旅行の準備とかで、あたしたちはいつになく騒がしく賑やかで、幸せといっていいぐらいで。

 あとから思いだしてみれば、それは最後の蜜月だったのだけど。
 かけがえのない、幸せな日々だった。

 春の、その日。デイジーは珍しく学校を休んでいた。たまに突飛な行動をとるものの基本的なルールは守りたがる娘だから、どれだけ迫害されようともどこ吹く風で登校してきていたのに。
 代わり映えのしない平和な日常に土がついてしまったみたいで、あたしは酷く不安になって。放課後、矢も楯もたまらずにお見舞いに向かった。

 デイジーの実家には以前、いちどみんなで訪れたことがあったし――でも、あのときは変な女が乱入したりで、奇妙な一時をすごしたわけで。桃源郷に迷いこんだみたいにあたしの記憶は夢うつつで、引きこもりがちなあたしは方向音痴だし、正直ちゃんと辿りつけるか自信はなかった。

 また王路さんに頼んで、道案内してもらってもよかったのだけど。
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