【掌編】

□【掌編】十七話
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 修学旅行前のせいか、いろんな委員長をやっている彼女はとっても忙しそうで、気を遣って声をかけられなかった。それに最近はデイジーが欠席することも増えて、そう毎度、みんなを巻きこむのもためらわれたのだ。
 あたしだけでいい、デイジーを独占したいというよこしまな気持ちもある――彼女の背中を押し、修学旅行の準備とか、慣れない集団作業をさせているのはあたしなのに。自分勝手なものだ、自己嫌悪。

 その日は生憎、チャラ男のボロ車がついに寿命なのか修理の途中で、車すらないあの男に価値はないので呼びつけることもないまま。運良く見覚えのあるデイジーの屋敷に辿りつき、けれど突然訪問して迷惑じゃないかしら、とか何とか迷ってその付近をうろうろしていた。

 しゃーっ、と車輪の音。
 振り向くと――。

「あっ」

 びっくりするほど間近に、鞠和ちゃんがいた。というか、こっちに突進してきている。かなりの速度で。あたしは文字どおりあっと驚いて全身を硬直させ、そんなあたしのお腹に頭突きをするようにして、彼女はぶつかってきた。

「わぶっ!?」

 変な声をあげて、あたしは思わず転倒した。踏ん張るような心構えも体重もなかった。尻もちをつき、痛みに悶絶する。
 デイジーんちの電話番号、知らないし。携帯電話なんて、ふつうは持ってない。うちの親が過保護というか、娘の行動を逐一知りたがる人種だから、あたしは重くて邪魔っけなかさばるそれを常にポケットにいれていたけど。

 相変わらずでっかい塀をのそばを、漫然と歩いて。もう帰ろうかな、でもせっかくきたんだし――でも迷惑だったらどうしよう、デイジーのおうちはなんだかいろいろ複雑そうだし。何て、挙動不審にしていると。
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